アメリカ 小さな街にある名建築たち

橘川雄一|2024.10
時が21世紀を跨ぐ頃、アメリカ・コロンバスという小さな街に"或る建物"私の施主が”世界で最も心に残った"という建物を確認しに行ったことがある。
コロンバスはアメリカ・インディアナ州の小さな街、私はインディアナポリスまで飛行機、そこからは車で行った。小さなホテルが一軒だけのこの街、著名な建物がわんさかと在る。
この街が時代を画する建築が数多くある理由は、地元企業〈カミンズ・エンジン〉の創業者が1954年より公共施設の建築費補助を進めたことと、代表者に"ものを見る目"があったからなのだろう。

印象深い建物、"ファイアーステーションNO.4 (1967)" ロバート・ベンチュリー(1925-2018)設計。
1967年に"モダン"から大きくポストモダン"に歩を進めた。
こんな小さな建物が世界にインパクトを与えたと思うと心が震えた。強い知性で世界に"時代"を示したいという心構えは心を打つ。

"ファースト・クリスチャン教会" 街の中心部に行くと、ひときわ目立つ建物。
イーロ・サーリネンの父親、エリエル・サーリネン(1873-1950)の設計である。彼はフィンランドのナショナル・ロマンティシズムを代表する建築家、シカゴ・トリビューンビルのコンペ入賞をきっかけにアメリカへ移住している。
ファースト・クリスチャン教会に入ると驚くほど空間がクリアー且つ、教会建築という歴史様式からは解き放されているという印象を持つ。建築設計密度が高いことは印象深い。

"クレオ・ロジャーズ記念図書館" イオ・ミン・ペイ(1917-2019・貝 聿銘)設計。
ペイはパリ・ルーブル美術館のピラミッド(増築工事)を設計しているが、当時の世界三大建築家に数えられる人である。私も一度会ったことがある。更に小さい(若い)時から建築の賞は総なめにしているので、彼の脳(ニューロン、シナプス)は建築のクリエイティビティに満たされていたのだろう。所謂“天才"。
私の見たクレオ・ロジャーズ記念図書館は、"煉瓦積み"という歴史意匠を纏っているので落ち着いた印象を受けるが、柱をランダムに配置可能な構造形式(厚肉床壁構造)を利用しているので内部空間は歴史建築とは違う"自由さ"を強く感ずる。

こんな小さな街に建築コレクションをするのはよほど豊かなんだろうと感じたと同時にアメリカの底力を見た思いがある。ちょうど日本が下り坂を一気に降り始めた頃だっただけに。
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